平安時代のお話です。
奥州会津に笹丸と菊世という夫婦が住んでおりました。
二人の間に子はなく、なんとか子どもを授かりたいと思っていましたが、あるとき「第六天の魔王におすがりしなさい」と教えられ、さっそく身を清めてお願いすると、それはそれは美しい玉のような女の子を授かりました。
その子を呉葉と名づけ大事に育てましたが、呉葉の美しさといったら姿ばかりでなく、読み書き、和歌を作ったり、琴を弾くことにかけては天才的でした。
やがて呉葉の評判は広まり、親子三人は村を出て京都行くのでした。
呉羽は名を紅葉と改め、お琴を教えるようになりました。
ある暑い夏の夕方、今をときめく源経基公の奥方が四条河原に涼みに来ました。その帰り、ふと近くの家からとても美しい琴の音が聞こえてきたので、奥方は「ぜひもう一度聞かせてください」と頼みました。
それが縁となり、紅葉は経基公の奥方の一番女中に出世しました。
そして紅葉が琴の評判が経基公の耳にも入り、ある日、大勢の前で弾くことになりました。
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月岡芳年「平維茂戸隠山に悪鬼を退治す図」
『新形三十六怪撰』 |